偽装心中が殺人罪となるか

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 被告人には,料理屋でA女と馴染みになり,結婚する約束までしていたが,被告人の両親からは猛反対され,交際を禁じられてしまった。渋々ながらも,被告人はA女との関係を清算しようと別れ話を切り出したが,A女がなかなか応じず,A女からは一緒に心中しようと持ち掛けられた。困り果てた被告人は,A女の後を追って死ぬとA女に申し向けたところ,A女は被告人が追死するものであると誤信し,自ら青酸カリを飲んで死亡してしまった。

 本件において,A女は,自己の死そのものにつき誤信していたわけではないことから,自ら死亡することについて承諾していたとして殺人罪に問うのは間違っているとする被告人の主張は認められない。A女は,被告人が後追い自殺によって追死するからこそ自ら死を決意しているものであるから,真の意味で自らの死亡を決意していたとは言えず,重大な瑕疵のある意思であることが明らかである。このようにして,被害者を誤信させて死亡させることは殺人罪に該当する。

 本件のような偽装心中において,殺人罪が成立することを最高裁判所が認めた事例です。本来,本当に自殺の意思がある者の自殺を手伝ったりすると自殺関与罪や同意殺人などといった罪が成立することになります。しかし,この事例においては,被害者の真意に基づいて,自ら死ぬことについて承諾があった訳ではないため,殺人罪ということになりました。真意に基づく正当な承諾の有無が大きなポイントなのです。

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