暴行によらない傷害

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 被告人は,一年半に渡って,自宅から隣家に居住する被害者らに向けて精神ストレスが生じるであろうことを認識しながら,連日連夜に渡り,ラジオ,目覚ましアラーム等の音声を大音量で鳴らし続けていた。その結果,隣人に精神的なストレスを与え,慢性頭痛症,睡眠障害,耳鳴り症といった傷害を負わせた。

 裁判所は,人の生理的機能を害する現実的危険性があると社会通念上評価される行為であれば,その手段に限定はなく,物理的有形力の行使飲みならず,無形的方法によることも含むと解するとしている。そのため,無形的方法である,音声などを大音量で隣家に流すという方法で,慢性頭痛症,睡眠障害,耳鳴り症といった傷害を負わせた場合は窓外罪が成立するとした。

 本来,傷害を負うのは,有形力行使の場合が多いであろうことは皆さんも察しがつくでしょう。しかし,傷害罪については実行行為が特定されておらず,手段,方法を限定していないことから有形力の行使の場合に限定する必要は必ずしもないものと言えるでしょう。そして,傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であるため,暴行の故意さえあれば,傷害の故意までは必ずしも必要とはされません。本件の事例においても爆音を流すことについてしか認識していなかったものであり,傷害行為の故意までは不要であるとされています。しかし,このまま傷害罪の実行行為が拡大されてしまうと,どこまでが実行行為に当たるのか不明確になり,刑法の自由保障機能との関係においても難しい問題が残されています。

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