自殺関与と殺人罪の限界はどこか

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 被告人は,A女からお金を借りていたが返す当てがなくなり,返済ができずにいた。そこで,被告人は,A女が自殺するように仕向けた。具体的には,A女がお金を貸し付けていたことが犯罪行為に当たるとして,刑務所生活が待っている旨の虚偽の情報を与え,相手を不安と恐怖に陥らせ,その後警察から追及されているとして,17日間もの間A女を連れ回したあげく,見つかると即通報される,身内にも迷惑をかけることになるなどと執拗に煽り,これ以上逃げることはできないと観念させてA女を自殺に追い込んだものである。

 犯人によって自殺するに至らしめた場合,それが物理的強制によるか心理的強制によるかを問わず,自殺者の意思決定に重大な瑕疵を生じさせ,自殺者の自由な意思に基づかない場合は自殺関与罪ではなく,殺人罪としての責任を負うことになる。本件のような事例において,被害者は,被告人に散々連れまわされ,心身ともに疲弊しきった状況であった。そのため,しっかりとした判断ができない状況での自殺の意思決定は瑕疵のある意思決定であるため自殺の意思があったものとして,自殺関与罪の成立を認めることはできない。

 自殺関与罪の成立のためには,自殺者の自殺意思が真意に基づく必要があります。しかし,本件のような事案では自殺者に真意に基づく自殺意思はなく,被告人によって誤信させられた結果抱いた自殺意思であるから真摯なものとは言えません。

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